父がいるという書斎に向かうと、彼は壁一面に設けられた背の高い本棚に手を伸ばしていた。

オリヴィアと同じそのブロンズの髪は午後の穏やかな日差しに透けて、思わず目を奪われるほどに綺麗だった。

書斎には本棚の他にも、大きな窓を背に机や椅子などの調度品が置かれている。部屋にある物は少ないが、その一つ一つが精巧に作られた上質な物ばかりだ。

伯爵は本棚から一冊の本を取り出すと、ゆっくりと時間をかけて大切そうに頁をめくる。きっと久しぶりの本邸が懐かしいのだろう。

懐かしむくらいなら本邸に住めばいいのに、とオリヴィアは思うのだが、メイとの二人暮らしも悪くないので口を噤む。なによりこの父との生活は耐えがたく避けたいことだった。


「……父上」

「やあ、オリヴィア。久しいな」


ドレスの裾を持ち、美しい所作で頭を下げるオリヴィアに、伯爵は朗らかな笑みを見せる。髪と同じ切れ長のブロンズの瞳を細める、その胡散臭い表情にオリヴィアは辟易していた。


「事前に連絡もなく本邸にご帰宅なされるなど、どうされたのです?」

「世間話もなしか。お前は相変わらずせっかちだな」


苦笑する伯爵だが、オリヴィアは気にしなかった。オリヴィアにとって一番時間が無駄なことは、この父と話をすることだからだ。

それはダルトン伯爵も同じだろう。オリヴィアが父を嫌うように、父もオリヴィアを厄介だと思っていることはオリヴィアにもひしひしと伝わっていた。


「緊急ということでしたから、世間話なんてしている暇もないのかと」

「それはそうだ。世間話をするために本邸に戻ってきたわけではないからな。

早速本題に入ろう。


オリヴィア、お前に縁談を持ってきた」