王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

家族の言葉にメイは大きく反応した。それから剣を握り直す。


「そうだよ、シュカ。君はただこいつらを殺せばいい。そうすれば君の家族は助かる」


リアムは繰り返し言う。

オリヴィアはその言葉でメイが置かれている状況が何となく分かった。

けれどメイは何度も剣を握り直すばかりで振り下ろそうとはしない。

否、振り下ろすことが出来ないのだ。

メイも、自分の家族と自分が仕える人々とを天秤に掛けられて選べずにいるのだ。

メイは本当は優しかった。悪い子ではなかった。

その事実だけでオリヴィアは嬉しかった。


だから「メイ」と静かに名前を呼んだ。

メイはオリヴィアの目を見つめた。なんて目だとオリヴィアは思った。

震える子犬のような、周りの全てを敵だと思い込んでいるような、そんな苦しそうな瞳をしている。

本当はもっと自由奔放で元気な子なのに。



「メイ、もういいよ。


私を殺して」



メイは目を見開いた。


「え……?」


「聞こえなかった?

私を殺していいって言ったの。

それでメイの家族が助かるなら、メイの役に立てるなら、後悔はないよ」


笑ってあげたかったのに、オリヴィアは泣いてしまった。笑顔のはずなのに、涙がこぼれていくのだ。

メイはずっと目を丸くしていた。呆然と立ち竦んでいる。

きっとオリヴィアの言った言葉の意味を理解できない、否、理解したくないのだろうとオリヴィアは思った。


「で、も……」

「今更悩むの? 昨日言ってくれたよね、選んだのは私だって。なら最後まで選ばなきゃ。

家族を助けるんでしょう? そのために選んだ道なんでしょう?」