王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「分かったらさっさと歩け」とメイは言う。

それからオリヴィアの体を縛っている縄を持つと引きずるようにして階段を登っていく。


「ねえ、メイ」

「私語は慎め」

「私ね、メイのこと大切に思ってるんだよ」

「だから、私語は慎めと……」

「もう死ぬんだから少しくらいお喋りに付き合ってくれてもいいでしょう?」


少しきつい言い方をすると、メイは黙った。それから「少しだけ」と小さく許可をした。

それがなんだか面白くてぷっとオリヴィアは吹き出してしまった。


「何を笑ってる!」

「何でも。ねえ、この際だから言うけど、メイは侍女として本当に仕事ができなかったわよね。他の家なら追い出されていたと思うわ」

それくらいメイは仕事ができない。物忘れはするし、単純な失敗も多ければ、あがり性で客人への対応もできない。本当に困った侍女だった。


「だから、なんだ」

「それでも私はあなたを一度もクビにしたことはなかった。なぜか分かる? あなたのことが友達として大好きだからよ」


メイはぴくりと動きを止めた。それから息を吸い込むと、「おめでたいやつだな、お前は」と薄く笑った。


「それじゃあお前は今からその親友に殺されるわけだ。せいぜい後悔しながら死んでくれ」

「後悔? そうね、考えてみるわ」


くすくす笑うオリヴィアに、メイは眉をひそめて不機嫌そうな顔をした。


「怖くないのか? これから死ぬんだぞ」

「そうね。それは怖いけれど。それよりも、あなたが心配だから」

「え……?」

「メイが無茶しているように見えるから、そっちの方が心配なのよ」


メイは目を見開いた。それから「あほなやつ」と呟くとまた歩き出した。


「ねえ、どこに向かってるの?」

「お前が知る必要は無い」

「でも、私がこれから殺される場所でしょう? ちょっと気になるわ」

「うるさい。もう私語は禁止だ」


それから暫く歩いて、一際細かい細工の施された扉の前に辿り着いた。


「シュカです」


メイは別の名前を名乗る。それから扉を押し開けた。

眩しいと思った光はすぐに消えた。そこは講堂のようになっている。部屋の奥にはいくつかのソファが置かれていた。弟王リアムがソファにゆったりと腰を下ろし、オリヴィアの父・ダルトン伯爵が拘束されて床に座っていた。


「お父様!」