王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

オリヴィアはメイを必死に見つめた。けれどメイは方をすぼめて俯いたままだ。


「メイが、寝返った裏切り者……?そんなこと、あるわけないじゃない。ねえ、メイ? 貴女の名前はメイでしょう。シュカなんて名前じゃない。ねえ、そうよね? メイ?」


けれどいくら名前を呼んでも返事をしてはくれない。こんなにも近くにいるのに声も聞こえないなんて。

呆然とする私とメイの様子をとても楽しそうに見ていたリアムは笑いを堪えながら言った。


「こいつの名前はシュカ。西の国に寝返った俺専属の諜報員。任務はお前の侍女として使えて、いつかダルトン伯爵家を皆殺しにすること」

「え……?」


ダルトン伯爵家を皆殺しに?

今すぐに違うと否定して欲しい。それなのにメイは何も言わない。


「皆殺しって、まさか、父も?」

「そうそう。君のお父上もね。ダルトン伯爵家は根絶やしにさせてもらうよ。そうしなきゃ俺が占拠するのに困るじゃん」


さも当然と言わんばかりの表情で言ってのけるリアムはまさに悪魔だ。睨みつけていると、「何か文句あるの?」なんて微笑まれた。


「ええ、あるわよ。この状況の一から十まで全部ね!」

「ふうん、まあそうだろうね。けど分かっているよね? 君を直接苦しめたのは、情報をこちらに提供していたのは、君の侍女としてずっと傍にいたそこの女なんだよ」


そこの女、つまりメイは一向にオリヴィアを見ようとはしない。


「君はもうすぐ死んでもらうからさ。最後に話でもしておけば?」


「じゃあ僕は先に行くね」なんて言い残して軽い足取りでリアムは退散した。

残されたのはオリヴィアとメイの二人きりだった。