つまりは権力が欲しい男というわけだとオリヴィアは思った。けれどそう思う一方で、この男の狂ったような意志の強い目が怖くて怯えてしまう。


「弱腰の兄からの国を取り戻す。そのためには実績が必要だ。俺の方が兄より強いという証明が。そのために兄の嫁のディアナ殿下が使えると思ったけど、彼女は兄が君たちの王宮に逃がしちゃったからね。代わりに君が必要になったってわけだ」

「つまり私を嫁がせて、アンスリナを使おうっていうわけですか」

「物分かりはいいんだね。その通り。君を嫁がせて、アンスリナを俺のものにすれば、次はそこから君の国を取る。そうして国土が広がればきっと国民は認めるだろう。王よりも王太子の方が優れていると。そうしたら俺はこの国をとる。いい方法だと思わない?」


狂っているとオリヴィアは思った。

今のままでも地位がありながら、それ以上を求めるというのか。しかも隣国を巻き込むという非道な方法で。

全く冗談じゃない。


「知りません。私にはあなたのことは関係ありませんから」


「まあその通りだ。だから今までは無関係だった君を連れ出すにも苦労したよ。

王宮にいるなんて言うから君を連れ出すために森や屋敷に火を付けたりしてね。なかなか苦労したなあ。ね、シュカ」


シュカと呼ばれたメイは俯いた。それは肯定の意味を示していた。


「メイ、まさか、貴女が火を付けたの……?」


メイは何も答えなかった。フードを深く被って俯いている姿からは表情さえも見えない。メイが今何を考えているのかも分からない。


「そうだよ。シュカ。君の生い立ちを教えてあげただろうだい。君は西の国に寝返った裏切り者なんだから」