オリヴィアが警戒しながら尋ねると、その人物は顔を上げて冷静にこう言った。


「西の国の弟王の遣いです」

「西の国? 弟王様ですか? なぜ?」


西の国との国境の地とは言え、西の国とのやりとりは今までに無いことだった。当然西の国の遣いがこの屋敷を訪れたこともなかった。


「ここは国境の地です。弟王も非常に感心をもっていらっしゃいます。ですのでこの度の火災によるダルトン伯爵家のお屋敷と森の損失を嘆いていらっしゃいます」

「そう、ですか……ご心配くださりありがとうございますとお伝え下さい」

「はい、承知しました」


それだけで終わりかと思いきや、遣いはその場を後にしようとはしない。


「ええっと、なにか?」


不審に思って尋ねると、遣いはまた話を続けた。


「出来ることがあれば援助したいと弟王様は仰っています。つきましては西の国の王城へとお越し下さい」

「え? お心遣いは大変有難く思いますが、今このような状況のなか、王城へ向かうことは……」


笑顔で断ろうとするオリヴィアだが、遣いはその言葉を遮るようにして強く言った。

「逆らうことはできません」
「え?」

「領主様が既に西の国へとお越しになっています。領主様に害を与えたくなければ、大人しく従ってください」

「どういうことです! 領主に、いえ、父に何を!」

「こちらに従って頂ければ何も手出しはしません。どうされますか?」


表情を一切崩さないこの遣いは一体何を考えているのだろうか。こんなもの、招待というのは建前でただの拉致だ。


「父に何をしたのかと聞いているのですが」

「何も手酷い対応はしていません。御領主様はとても物分かりの良いお方のようで、弟王様との話が進んでいるようですから」

「話? 一体何の話ですか」


あの父親のことだ、何か良からぬ話をしているのではないかという予感が全身を貫く。ただそれがどんな良くないことなのか、問題はそこなのだ。


「これ以上は城に来て頂かなければお伝えできません」

「そんな!」

「さあ、共に参りましょう」


オリヴィアはこぶしを強く握って考えた。