深緑色の屋根の白亜の邸宅は、真っ黒に焦げ、あちこちが崩れていた。本当にここは自分が暮らしていた屋敷だろうかとぼんやりと思ってしまうほど変わり果てた姿にオリヴィアの心は表しようのない痛みに抉られていた。

けれど立ち止まっていてはいけない。拳を握りながら、一歩、屋敷の中へ進んだ。

屋敷の中も損傷は酷かった。

ただ焼け残った絨毯や家具が、やはり自分がずっと過ごしてきた屋敷なのだと思わせて辛くなった。

焼け焦げて黒く煤けているのに、崩れた場所から見える空の色はとても綺麗な橙色だった。


「ただいま」


掠れる声でそう呟いたけれど「お帰りなさい」と返ってくる声はない。

溢れそうになる涙を腕で拭って屋敷を出て、覚束ない足取りで森へと向かった。

木々の生い茂る森は昼間でも少し暗くて、ところどころに木漏れ日を作ってくれた。その脇には四季折々の花々が咲き乱れていつもオリヴィアの心を癒してくれた。そして心地よい風に乗って小鳥の囀りがきこえてくるはずだった。

それなのに今は、見上げればすぐ橙色の空が見える。木々は柱のように黒く焦げて真っ直ぐ空に向かって立っている。

この森はいつも静かで穏やかな場所だと思っていたけれど、今までのいつになく今が静かだった。けれどそれは心地の良い静けさではなく、生命が絶滅したような、そんな無性に悲しい静けさだった。

鳥も、動物も、昆虫達さえもいない。

花も、木々も、まともに咲いているものはない。

こんなにも悲しいことがあるだろうか。


泣きそうな心を抱きしめながら少しずつ歩を進める。

けれど、やはり涙が溢れそうだった。記憶の中の森と、目の前に広がる森があまりにもかけ離れているのだ。

そしてオリヴィアは泉のあった場所を見つけて目を見開いた。

透き通ったわき水が作った泉は、焼けた木々の木片や草花の死骸で溜まって黒く濁っていた。

この湖畔はオリヴィアの心をいつも支えてくれていたのに。

この地に再び訪れることを楽しみにして、王宮での生活を頑張ってきたのに。

どうして、こんな悲しい形で故郷に戻らなければならなかったのだろう。

ああ、こんなことならもっと早く無理をしてでも戻れば良かった。

そうしたら火災を最小限で止めることが出来たかもしれないのに。

もっとこの森の中で過ごせたのかもしれないのに。

オリヴィアは崩れるようにしてその場に座り込んだ。

やはり見上げるといつも見ていたよりも広い暗い橙色の空が広がっていて、ところどころ星が瞬いている。

オリヴィアは立ち上がった。これ以上この森にいてはさすがに危険だろう。夜は領民達の家に泊まらせてもらう他ない。

そうして元来た道に戻ろうとしたときだった。

木々の間でオリヴィアに頭を下げる人が居た。それは領民ではなく、上質な衣を纏っている。では衛兵かと思ったけれど、衛兵の服装とも違う。


「何者ですか」