王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「え……」

「領地が大好きなお前のことだ、領地のことが気になって仕方ないだろうが、顔が真っ青だ。ひとまず部屋で休め」

「でも……」

「いいから、休め」


オリヴィアの両肩を掴み、真っ直ぐな目でオリヴィアを見つめた。アーノルドの射るような目に、不安で定まらなかったオリヴィアの視線がアーノルドを捕らえた。

それを見てアーノルドは少し安心したようにゆっくり話した。


「今この瞬間も領民達やあの辺りの衛兵達が懸命に消火活動をしてくれているだろう。逆に今お前が領地に向かったところでできることは何もない。それどころか混乱に乗じて賊の攻撃に遭うかもしれない」

「でも、領地が大変なのに、私は……」

「じゃあ、お前にできることを教えてやろうか」


何度言っても落ち着かない様子のオリヴィアに、アーノルドは苛立った様子を見せた。


「今のお前にできることは、賊の心配の無い安全な城の中で、早い事態の収束と、これ以上被害が広まらないことを祈ることだ。分かったな?」


その言葉にオリヴィアは頷いた。それを見たアーノルドは「よし」と少し笑顔を見せた。

それからメリーアンの名前を呼んだ。


「悪いけど、緊急事態だ。君は部屋にいてくれ。君は大事な客人だ。安全が確認できるまでは、協力して欲しい」


涙が落ち着いたメリーアンは「分かりましたわ」と凛と答えた。


「早期の事態の沈静と収束をお祈りします」

「ありがとう」


それからは、あまり覚えていない。侍女に支えられながら部屋に戻り、寝台に横になった。

気を利かせた侍女が甘い飲み物を運んでくれたが、口にする気になれなかった。

カーテンを閉め切ったままの部屋は薄暗い。横になり目を閉じていると、嫌でもアンスリナの美しい森や領民達の顔が浮かんでくる。

あの森が燃えたなんて、初めて聞いた。

死亡者も負傷者もいないと言っていたけれど、今も本当にいないのだろうか。領民達は苦しんでいないのだろうか。

考え出すと止まらない。オリヴィアは居ても立ってもいられなくなった。

オリヴィアは部屋から飛びだして王城を出た。門番に「どちらへ?」と尋ねられ「少し、城下へ散歩に」と適当に答えた。


城下に出たオリヴィアはすぐに馬車を探した。馬車は思いの外すぐに見つかり、オリヴィアは乗り込むと行き先を告げた。


「アンスリナまで」