王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「え、はい……」

「君はずっと僕のことを想っていてくれたんだよね」

「ど、どうして、それを……」

「分かるよ、君を見ていれば」


その言葉にメリーアンは目をぱちくりさせた。どうやらメリーアンは自分の気持ちはアーノルドには届いていないと想っていたらしい。

王国の令嬢の殆ど全員が知っていることだというのに、とんだ鈍感王女だとオリヴィアはこっそり溜め息を吐き出した。


「だから、ごめんね」


その言葉でメリーアンの涙は溢れ出した。

今、この瞬間、メリーアンの長い恋は終わりを告げたのだ。

泣き崩れるメリーアンの肩を、アーノルドはそっと支えた。何も言わずに、黙って支えた。

それでもメリーアンの涙は止まらない。

城の役人達はひとり、またひとりとその場を後にした。何も言わずにそっと離れていく。それは役人達なりの心遣いだった。

オリヴィアもこの場を後にしようかと思ったその時だった。


「アーノルド様!オリヴィア様!大変です!」


伝令役が血相を変えて走ってきた。


「どうした」

「それが、アンスリナで山火事が!」


オリヴィアは目を見開いた。


「えっ?」


信じたくない。今の連絡は嘘では無いだろうか。

そう思いたいオリヴィアの気持ちも余所に、伝令役は額に汗を流しながら淡々と告げる。


「国境のアンスリナの山から火が出ているとの連絡が今ありました」

「被害は」

「アンスリナの森の大部分を消失しました。死亡者、負傷者はいません」

「そうか」


アーノルドが冷静に状況を判断する一方、オリヴィアは俯いて顔を青くした。


「大丈夫か?」

「いえ……」


オリヴィアの肩を抱きながら、「何かあればまた頼む」と短く伝令役に告げた。

「オリヴィア、お前は部屋に戻れ」