王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

決してオリヴィアは大声を出したわけではなかった。

ただその迫力に、メリーアンは圧倒されて目を見開いていた。

それからハッとしてまた目を鋭くして何か言い返そうとしたときだった。


「騒がしいと思ったら、君たちだったんだね」


城の役人達の輪の外から現れたのはアーノルドだった。

アーノルドの登場にメリーアンは目を見開いて驚いていた。それから顔を青くした。

オリヴィアは溜め息を吐き出した。こんなことだろうと思っていたのだ。

メリーアンは城の客人だ。城の客人と口論したら、アーノルドだって看過することはできないだろう。

じとりと睨みつけるオリヴィアに近づくアーノルドは微笑みを浮かべていた。その顔は穏やかな表面の表情にも思えたが、オリヴィアには、笑いを堪えるようにも思えた。

オリヴィアは我慢できなくなって隣にやって来たアーノルドにしか聞こえないほど小さな声で「笑いすぎです。性格の悪さがバレますよ」と釘を刺した。

するとアーノルドもとても小さな声で「八つ当たりか?勘弁して欲しいな」と言うのだった。


オリヴィアも何か言い返そうと思ったが、その時、真っ青な顔をしたメリーアンが震える声で言った。


「あ、あの、アーノルド様、これは」

「メリーアン王女、どうしたの? こんな穏やかな朝から口論をするなんて」


メリーアンを気遣うような言葉だが、実際にはメリーアンの言葉をさえぎっている。真剣には聞こうとしていないことは丸わかりだった。


「それは、その」

「実は、少しあなた方が口論している声が聞こえてきたんだ」


その言葉でメリーアンは体を硬直させた。顔は更に青くなり、額には汗が流れている。


「オリヴィアがいることで僕に迷惑がかかるって言っていたみたいだけど、それはないよ」


そう言うと、アーノルドはオリヴィアの肩を自分の方に強引に引き寄せた。


「この娘は、僕が選んだ令嬢だ。凛として美しい、誰が何と言おうと、王太子妃に相応しい女性だよ」


その言葉にメリーアンは押し黙る。その目には僅かに涙が浮かんでいるようにも見えた。


「メリーアン、君とは長い付き合いだね」