王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「面汚しだとしても、ここにいることを許してくださったのはアーノルド殿下です。王女、少し落ち着いてお話しましょう」

「本当に嫌な人ね!何て失礼な人なの!私は西の国の王女なのよ。分かっているの!?」


金切り声にも似た王女の怒声に、城の役人達は集まってきた。そして目を見開いてオリヴィアとメリーアンの様子を見守っている。

けれど怒り狂っているメリーアンには城の役人など目に入ってはいない様子だった。


「ああ、忌々しい。こんなにも失礼な人がこの国にいるなんて!殿下がお可哀想だとは思わないの!? 殿下に恥を掻かせているとは思わないの!?」

「私をここに呼び寄せたのもアーノルド様です。私はアーノルド様のことを尊敬しています。そんなアーノルド様のご選択を、私は間違いだとは思いません。ただアーノルド様のご迷惑をおかけしないように、私もできるだけの努力をしているつもりですし、今後も努力しつづける所存です」


それはオリヴィアの本心でもあった。

民の生活に寄り添い、王族の立場に溺れることなく、民のためにその力を使おうとする。その姿勢はオリヴィアの目指したい貴族のあり方だった。

金と権力にまみれた貴族社会の中で、民に寄り添うというその姿勢を貫くことがどれほど難しいことかオリヴィアはよく知っていた。

だからこそオリヴィアはアーノルドのことを尊敬していた。

そんな尊敬するアーノルドの迷惑になりたくない気持ちも本当だった。

オリヴィアは、アーノルドのことに憧れたのだ。


「王女、オリヴィア様はアーノルド殿下のご婚約者です。どうか、この場はお収め下さいませ……」


衛兵のひとりがメリーアンにそう呼びかけるが、オリヴィアはそれを見逃さなかった。


「構いません」と言ったのだ。


「アーノルド殿下のことを仰るようでしたら、私も容赦することはできませんが、私のことだけであれば構いません」


それからじっとメリーアンを見つめながら一歩ずつゆっくりと歩を進める。

そして怒りに歪むその顔に微笑んで見せた。柔らかい微笑みなんかではない。


不敵の笑みだ。


「なんとでも仰ってください。

どうぞ、お気の済むまで」