本気でオリヴィアを狙うだろう。

メリーアンのことだ、アーノルドには見つからない場所で、いや、誰にも見つからない場所で、自分の命を狙うかもしれない。

誰にも分からない場所でひっそりと殺され、その亡骸も誰にも見つけられないような場所に捨てられるかもしれない。そうして朽ち果てるのかもしれない。

想像するだけで震える。体中が強ばり、オリヴィアは自分を抱きしめるように腕を組んだ。強く握り、震えを見せないように抗う。


「怖いのか?」

「怖い?馬鹿なこと仰らないでくださいよ」


弱みを見せたくなくて、オリヴィアはそう言った。そして不敵な笑みを見せる。


「私は今回の王女へのおもてなしをやり遂げ、故郷へ帰ると決めたのです。そのための道がどれほど険しくとも、今更この決意が揺らぐことはありません」


目を閉じればいつだってアンスリナの美しい森や泉の景色が、領民の笑顔がオリヴィアの脳裏には浮かんでくる。

再びあの景色を見るためなら、どんな困難にも耐えると決めたのだ。そうだ、今更何を怯えることがあるだろうか。

目を瞑り故郷を思い続けるオリヴィアを、アーノルドが優しく抱き締めた。

慌てて目を開けたオリヴィアは驚きの声をあげると、その腕の中から抜け出そうと抵抗した。


「なっ、何をなさるのですか!」

「お前の強がりは、存外分かりやすいな」

「強がってなど!」

「ならば、なぜこんなにも体が震えている」


少し咎めるようなアーノルドの言葉に、オリヴィアは返答を詰まらせた。


「これは、その、日が落ちて涼しい風が吹いたので、少し寒く感じただけで…」

「ふうん、風が、ねえ。ならば冷えた体を温めねば」


咄嗟についた嘘もアーノルドは瞬時に見抜き、その上で微笑んだ。決して素直にはならないオリヴィアを愛しく感じたのだ。

強く抱きしめるアーノルドの腕の中で藻掻くオリヴィアに、アーノルドは「心配しないでいい」と囁いた。


「お前が何処にいて、誰に襲われたとしても、必ず見つけ出して俺が守るよ」


その言葉はすうっとオリヴィアの中に溶けていくようだった。強ばっていた体の緊張が解け、心を覆う不安も消えていった。まるで魔法のようだった。