王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

メリーアンはオリヴィアの言葉を遮るようにしてそう言った。


「国境、国の中心地から最も離れた土地とはいえ、アンスリナは非常に貧相で無骨な地。オリヴィア嬢はその地で育たれたために、貴族とは思えない品性を欠いていらっしゃるのですわね。恥ずべきことですわ」


どうやらオリヴィアが言い返さなかったことがメリーアンの癪に触ってしまったらしい。

メリーアンの気分を害さないようにと思いつつ接してきたオリヴィアだが、このまま言い返さなければさらにメリーアンの気が立ってしまうことは簡単に想像ついた。

それに、あれだけ自分の領地を馬鹿にされたのだ、これ以上はオリヴィアも我慢ならない。

オリヴィアが口を開こうとしたときだった。それまで黙って戦況を見守っていたディアナが冷静に、けれどしっかりと告げた。


「王女。その言い方では、そんな彼女を妃に選んだアーノルドのことも非難しているように感じられるわ。あなたはアーノルドのことを非難しているのかしら?」


落ち着いて気品が漂う声だけれど、その端々に刺が感じられる。

弟思いのディアナはきっとアーノルドが批判されているようで耐えられなかったのだろう。

ディアナに冷ややかな目を向けられたメリーアンは「いえ、そんなことは」と言葉を詰まらせた。


「ただ私は、アーノルド様のことを案じているのです。このように田舎臭く品のない令嬢がアーノルド様のお妃になるなど、アーノルド様にどんな被害が及ぶだろうかと、私はアーノルド様の苦労なさる姿は見たくはありません」


眉を下げてそんなことを言うメリーアンはとても心配だと言わんばかりの表情を浮かべている。けれどオリヴィアには違って見えた。

私こそがアーノルドの妃に相応しいのだと心底思っているように見えるのだ。

ディアナは「そうなのね」と柔らかく微笑んだ。けれど次の瞬間、その目元だけ僅かに鋭くした。


「てっきり私は、オリヴィア嬢のことが気に入らなくて、ライバルを蹴落とそうとしているように見えたのだけど」