王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

頭を悩ませるオリヴィアの隣で、レオも考え込む。

眉間に皺を寄せて唸り声を上げながら考えていたレオは、何かを思いついたようでぱっと顔をあげて明るい顔をした。


「つまり、あれだろ? お嫁さんにならなかったらいいんだろ? 王宮にとりあえず行って、やっぱお見合いは辞めますって言えばいんじゃねえの?」

「それは無理ね。そんな無礼なこと、王族に反逆したと思われるわ。それこそ身の破滅よ」

「えー、そうなのかあ? んー難しいなあ」


レオは思い切り眉間に皺を寄せる。それから急に、「だー、もう分かんねえ!」と声を張り上げてそのまま湖畔の芝生に倒れこんだ。どうやら考えるのが嫌になったらしい。

オリヴィアはそれを傍目で見ながら、彼の気持ちが少し分かるような気もした。オリヴィアもいくら自分のこととは言え、このことをもう考えたくない。ああ、とんでもなく厄介なことに巻き込まれてしまったものだ。


湖畔に転がったレオの瞳には青空が映っている。澄んだ青が綺麗で、オリヴィアはやはりこの地を離れたくないと思った。


「……お見合いかあ、うまくいったらお嬢は王宮で暮らすのか?」

「そうね。もしも殿下が選んでくださったら、私はお妃様になるのだから」

「ふうん、じゃあ選ばれなかったら花嫁にならないのか」


真剣な顔をしてそんなことを言うレオに、思わずオリヴィアは呆れて溜め息を吐き出した。


「それは、そうよ。何を当たり前のことを…」


当たり前のことを言うの。そう言いかけて言葉を飲み込む。

オリヴィアは気付いてしまった。

王太子殿下の花嫁にならずに済む方法を。この地に再び戻ることができる方法を。

そんな夢が叶う、たった唯一の方法を。