王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

衛兵の皆の呼吸が止まり目が見開かれ、その視線はオリヴィアに集まる。

オリヴィアはそれを感じつつも、特に気にとめてはいなかった。

もはや分かり切ったことだった。

だからこそオリヴィアはどうにでもなれと半分はやけくそになって挨拶をしてみせた。


「ご機嫌よう、メリーアン王女。

私はダルトン伯爵家、オリヴィア・ダルトンにございます」


「ご機嫌よう、オリヴィア嬢。

私は西の国のメリーアンですわ。どうぞお見知り置きを」


メリーアンは目を細め、口元は柔らかく弧を描き、温かな雰囲気を身に纏おうとしている。まさに完璧な作り笑顔だ。

差し出されたメリーアンの手を握りながら、オリヴィアは吐き気さえした。

どうして王侯貴族はこんなにも上辺だけを完璧に作るのだろうか、と。



その後のお茶会も、終始緊張に充ち満ちていた。

息をするその音さえ躊躇してしまうほどの息苦しさだった。

カチャリと音をたてて青色の花模様が描かれたティーカップを置いて、メリーアン王女はにこりと微笑んだ。無論、アーノルド王太子に向けて。


「本当にお久しゅうございますね、殿下。何回か夜会の招待状を送りましたけれど、お忙しかったようで」

「あら、アーノルド。貴方、レディの誘いを何度も断るなんて失礼じゃないの?」


メリーアンは少し恨めしそうに、そしてディアナは少し楽しそうに、二人とも目を細めてアーノルドを見つめる。しかしアーノルドは少しも気にとめていない様子で、あの外面の微笑みを浮かべて美しい所作で答える。


「その件は悪かったと思っているよ。でもメリーアンが元気そうで何よりだ」

「ありがとうございます、殿下。また次の夜会にはぜひいらしてくださいね」

「ああ。ぜひ、オリヴィア嬢と参加させていただくよ。彼女は僕の婚約者だからね」