王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「ディアナ殿下」


オリヴィアを呼んだのはディアナだった。廊下の向こうから腕を大きく振っている。


「こちらよ、オリヴィア嬢。さあ、頑張りましょうね」

柔らかく微笑みかけられ、オリヴィアの表情は凛と引き締まる。


「ええ」

「ふふ、オリヴィア嬢は真面目ね。けれど肩の力は抜いて、少し落ち着いて。いくら彼女でも、いきなり最初からあなたを取って喰うわけではないから」


そしてメリーアンを出迎える門へ共に歩き出しながら、ディアナはオリヴィアの耳元で囁いた。


「忘れないで、オリヴィア。私もあの子も、いつでもあなたの味方だから」

「え……?」


二人を守る衛兵にも、そしてメイにも聞こえないほど小さな声で鋭く呟かれた言葉にオリヴィアは聞き返す。

けれどディアナはそれ以上何も言わなかった。

味方だと言われたのはディアナともう一人誰のことだったのだろうか。

あの子とは一体だれのことだろうか。

ぐるぐると思考がまとまらず回る中で、オリヴィアには一人の顔が浮かんでいた。


『困ったら頼っていいからな』


アーノルドの声が耳についてはなれない。

オリヴィアは胸元で手を握りしめた。そしてちらりと後ろを歩くメイを見る。

見つめられたメイはどうしたのかと心配そうな表情をするが、オリヴィアはすぐに前を見据えた。

そして胸の中で、大丈夫と何度も繰り返す。

味方がいるのだ、心配いらないと、折れそうになる心を奮い立たせた。



そして門へ着くと、すでに多くの衛兵が隊列をなして客人を出迎えるために警備に当たっていた。

ディアナの隣にたっていると、「遅くなりました」と聞き慣れた声が聞こえてきた。


「あら、アーノルド」


名前を呼んだのはディアナだった。

アーノルドは重厚感のある外套を羽織っている。

客人を迎え入れるためにいつもよりも煌びやかな装いをしているアーノルドに、オリヴィアは不覚にも視線を奪われる。

そして、視線がぶつかる。

その瞬間、オリヴィアの心臓はどくんと跳ねた。目を離さなければならないと分かっているのに、顔の周りに熱が集まるばかりで視線を逸らせない。


「どうした、オリヴィア?」

「いえ、なんでも」


辛うじてそれだけ言うとオリヴィアは俯いた。

一体今、自分はどんな顔をしていたのだろう。ダルトン伯爵家の令嬢として、気高い令嬢としてちゃんと振る舞えただろうか。不安が募る。

その様子を面白がり頬を緩めたアーノルドに、ディアナは目を細めて罵った。口元にはからかうような意地の悪い笑みを浮かべている。


「ねえ、アーノルド、随分と遅かったじゃない」