王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

鏡台の前に立ち、唇にもう一度紅をさす。そしてにこりと笑ってから、メイを見つめた。


「私にできることは少ないわ。殆どないのかもしれない。それでも大好きなメイと領地のみんなのために、みんなといるために、私にできることがあるのなら私は何だってしてみせる。困難とだって戦ってみせる」


オリヴィアの根底にあるのはいつだってその気持ちだけだった。

メイは目を見開いたままオリヴィアを見つめる。優雅に微笑む令嬢に、こんなにも強さと気高さを感じるのは初めてだった。


「だからね、メイ、どうか見ていて。

私が強くなるところを、願いを叶えるところを」


そのとき部屋の扉は開かれた。

王宮侍女がオリヴィアを呼びに来たのだ。


「さあ、行きましょう、メイ」


メイは返事をすることができなかった。オリヴィアの強さを目の当たりにして圧倒されたのだ。


「……はい、お嬢様」


しばらくしてから返事をしたメイに、オリヴィアは首を傾げながらも微笑みかける。


「いつものあなたらしくないわね、メイ」

「いつもの、私……?」

「メイはいつも私が他の令嬢と会うときは誰よりも緊張していたでしょう? 挙動不審になったり、青い顔をしていたり、震えが止まらなかったり」

「だ、だって、それは……!」


少し困惑したように怒り出したメイを見て、オリヴィアはふふと笑った。

突然笑い出したオリヴィアに、メイはさらに混乱した。


「怒らないで、メイ。冗談よ。いつも言っているけれど、いつでも素直なあなたがいてくれるから私はいつも通り振る舞えるの」


メイがもし自分の元から離れてしまうようなことがあれば、自分は令嬢として凛とした態度で居続けることはできないだろうとオリヴィアは思っていた。

それほどオリヴィアにとってメイはいなくてはならない存在、言わば自分の半身だった。

王宮侍女の案内で王宮の回廊を歩きながら、オリヴィアは「そうだった」と思い出したようにメイに言った。


「ここは王宮だから、本来なら私の従者であるメイは王女との謁見の場には一緒にはいられないんだけれど、今回は特別に許可が出たわ」

「え……」

「傍で見ていてね、メイ」


オリヴィアがメイに微笑みかけると、遠くからオリヴィアを呼ぶ声が聞こえてきた。