王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「私には不安が無さそうだと、メイはそう言いたいの? いつでも自分の願いを口に出すワガママな令嬢だと、そう言いたいのね?」


目を細め、咎めるようにわざと意地悪な言い方をしてみる。

するとオリヴィアの思ったとおり、メイはおろおろと狼狽えた。半泣きだ。

その顔を見たオリヴィアは「冗談よ」と言ってあげた。


「私は、本当は臆病なのよ」

「え……?」

「だから、メイとこうして話すことで自信を持とうとしているの。

私にだって不安になることも、怖くなることもあるわ」


メイは自分を何者だと思っているのだろうとオリヴィアは思った。

誉れ高く誇り高い完全無欠のご令嬢だなんて思っているのだとしたら、それは間違いだ。

自分はただ大切な人達の元で暮らしたいと願うだけの少女に他ならない。


「けれど、お嬢様はとてもお強いです。これだけの困難を前にして願いを持ち続けることは簡単なことではありません」


まるで自虐するようなメイの言葉にはどこか引っかかるものがあった。

いつもの純真無垢なメイの表情とは違ったのだ。


「メイ……」


けれどオリヴィアにはなぜメイがそんな表情をするのか分からなかった。

自嘲しているのか、苛まれているのか、けれどメイの過去をオリヴィアは詳しくは知らない。オリヴィアが知っているのは、アンスリナの中でも最も辺境の地と呼ばれる村で生まれ育ったこと、そして貧しい家族を養うために仕事を探して単身で領地の中心地へと出てきたことだけだった。

オリヴィアとメイが出会ってから沢山の時間を共に過ごし、心を通わせてきた。けれど、それでも、オリヴィアはメイの全てを知っているわけではない。

きっとオリヴィアと出会う前、メイにはオリヴィアも想像できないような苦労もあったのだろう。

全てを分からなくても、オリヴィアには断言できることがあった。


「それは、あなたも同じでしょう?」