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 きっかけは猫だった。


 土砂降りの雨なんて久しぶりで、憂鬱な気分な春の午後。曇り空のせいで、心なしか暗く感じる通学路。
 わたしは傘をさしているのにも関わらず、濡れていく制服が鬱陶しくて早足だった。


 でも、その光景が目に飛び込んできて、わたしは足を止めてしまった。



「ごめん……ごめんな!」



 黒い傘。桜の木の下で謝り続ける彼の手には子猫が二匹。何に謝っているのか、なぜそんなに後悔しているのかはわからない。


 だけど、壊れそうな彼を抱きしめたくなった。



「もう、謝らないで」



 驚いた彼の黒い傘が落ちた。
 傘に張りついた桜の花びらがすごく綺麗で、見惚れてしまった。


 違う。本当は彼の横顔に惚れたんだ。
 すごく綺麗な泣き顔が脳裏に焼きついて離れない。


 好き。
 この感情は、忘れたくなかった……。