「海愛ちゃん、それに優がいなかったら、俺はきっとこの世にはもういないと思うよ。櫻井を苦しめたのは結果的に俺のせいだし、一人だったらきっと自分の過去すら乗り越えることができなかった」





「そんな……」





 私は一度、神谷くんの着替え最中に遭遇したことがある。その時、神谷くんの背中に刻まれた傷痕を見た。あまりに衝撃的で言葉を失ってしまった私に、神谷くんは悲しい目をして言った。





『ごめんね』





 あの時見た神谷くんの悲しそうな笑顔が頭から離れない。

 私はそっと神谷くんの背中に腕を伸ばした。





「海愛ちゃん、もう一度言わせて」





「うん」





「俺と、結婚してください」





「……はい」





 神谷くんの言葉に、私はゆっくり首を縦に振った。

 ねえ、蓮。これで良かったんだよね。私、間違ってなんかないよね?

 三か月後、私は神谷くんと入籍した。式は挙げず、私たちは新居で新たな生活を始めた。

 休日のある日、私の夫である陸りくくんは物置を漁り始め、一枚のDVDを手に戻ってきた。





「やっと見つけた」





「なにそれ?」





 ホッとした表情でDVDを手にする夫の姿に私は首を傾げ、彼の隣に移動する。優は隣の部屋で寝息をたてている。





「見たい?」





 もったいぶる彼に、私の好奇心が掻き立てられる。真っ白なディスクを見つめる私に彼は言った。





「俺は見るの二回目なんだけどね。海愛ちゃんはタオルを用意した方がいいよ」





「え、泣くような内容なの?」





「絶対泣く」





「えー、怖いのは嫌だからね」





「まあ見てよ」





 陸くんは、優しく私の頭を撫でながら笑う。

 数秒後、真っ黒な画面に映像が映し出された。