神谷くんは戸惑いながらも私の言う通りにしてくれた。

 秒針が時を刻む音を聞きながら、私は続く言葉を見つけられずにいた。優の寝返りを打つ唸り声にビクリと体を跳ねさせながら、私は拳を握る。大きく息を吐き出し、私は首から取り外したネックレスを机の上に置いた。

 チャームと指輪が通されたネックレスは時と共に色褪あせ、所々が酸化して変色していた。

 かつて、蓮がくれた私の宝物。

 私の行動に、神谷くんはなにも言わず机の上に置かれたものを見つめていた。そして大きな溜息をついて言った。





「これが……海愛ちゃんの答えなんだね」





 神谷くんの言葉に私は首を縦に振った。





「待たせてごめんなさい。でも私、決めたから」





 未練を完全に払拭した、と言えばそれは嘘になる。胸に抱えたこの想いは、きっと一生消えずに残るだろう。消すことができない思い出ならば、前に進むため新しい思い出を上書きしていくしかない。

 神谷くんは机の上に置かれたネックレスを手に取り、目を細めた。私はそんな彼の様子を不思議そうに見つめた。私の視線に気がついた神谷くんは、私の手を取り、ネックレスを握らせた。





「え、神谷くん?」





「俺、言ったよね? 君の過去も、君が櫻井に持ってる想いも全部受け入れてやるって。そんな泣きそうな顔させてまで、君にこの品を捨てさせたかったわけじゃない」





 神谷くんの言葉に私は自分が今、どんな顔をしているのか理解した。

 神谷くんは私に「思い出を殺すな」と言ったのだ。





「私でいいの? 私、もうすぐ三十路だし、子供もいるし……蓮のことも忘れられないままなのに」





 言葉の途中、私は突然訪れた人肌の圧迫感に驚いた。いつもは背後から抱き寄せる神谷くんが、私を正面から抱き締めていたから。