その日、わたしはずっと、クラスでの智絵の様子をうかがっていた。
智絵は息を殺すように、じっと席に着いたままだった。
始業式や掃除のために移動するときは、一人きりでサッといなくなった。
智絵は空気みたいに振る舞おうとしている。
誰の目にもつかないように、誰の邪魔もしないように。
でも、その日だけで三回あった。
智絵にギリギリ聞こえるくらいの声で、悪口と笑い声が交わされる。
「くさい」
「うざい」
「グズ」
「キモイ」
「根暗」
「バカ」
「ブス」
「ゴミ」
「死ねばいいのに」
「何でここにいるの」
「どもっててキモイ」
誰のこと、とは言わない。
でも、視線を追い掛けて「そういうことか」と、簡単にわかってしまう。
ニヤニヤした視線の先で、智絵は独りぼっちでうつむいているから。
智絵、わたしも「そっち側」に行こうか?
反射的に、わたしはそう思った。
同情だったかもしれない。
打算だったかもしれない。
わたしも智絵と一緒にいじめられたら、この場所にいなくてすむ。
一緒にどこか別の場所へ行ける。
でも、できなかった。
「蒼ちゃーん、英語の自由研究、担任がめっちゃほめてた! 見せてもらったんだけど、マジすごい! ほら、これ!」
担任は英語の担当だ。
提出したばかりのわたしの分厚いファイルが、クラスの派手な女子たちの手にあった。



