【蒼兎side】
「そんなこと、ないよ」
そういって僕は朱里から顔を逸らした。
朝兄さんと話した事。僕は一生忘れない。
『なぁ、蒼兎』
『なに』
『朱里ちゃん、やっぱり雅さんの娘だ』
『だろうね』
雅さん、それは朱里の父親。僕は、朱里の父親と母親をよく知っている。
母親は桜さん。とても優しくて、親のいない僕と兄さんにとても優しくしてくれた。
朱里は桜さんによく似てとても優しい子だった。
そして、雅さんのようにたくましくもあった。
だから、雪の日に倒れていた君を見たとき、ドキッとしたんだ。真っ白な髪に紅の瞳。
桜さんに、とてもよく似ていたから。
『あの里は僕のせいでなくなった』
『蒼兎……』
僕が弱かったから。僕のせいであの二人は、里の皆は死んでいったんだ。
たった朱里一人だけを、残して。
『あの里は俺らの里でもある。だけどな』

