「ねぇ、蒼兎」
「なんだい?」
私から話しかけてやっと反応してくれた。
「蒼兎は町に来たことあるの?」
「少ないけど、何度かね」
「いいなぁ」
「どうして?」
「だってさ、人間は怖いって聞いてたけど、関わっちゃいけないとは言われてないし、それに里にはない楽しいものが一杯あるんだよ?」
「そうだね、集落とは別にたくさんあるね」
そのどれもは輝いて見えて。
憧れていたものが今目の前にある。
それがどんなに素晴らしいことか。
「人間も私達と変わらないんだね」
「そうだね、皆同じだよ」
里を襲った人間も、私達狐も、暮らしかたは違えど同じように生きている。
確かに襲ってきた人間は憎くて仕方ないけれど、今目の前にいる人が襲ってきた訳じゃない。
それに、自分達にとって恐ろしく思う存在がいたら逃げるし、時には殺してしまうときだってある。
だから、恨むことはないんだろう。
けど、やっぱり里を襲った人間は許せない。
今はそれだけで十分だから。
「いいな、人間と関わるのも」
「そんなこと、ないよ」

