夕暮れ時、茜色に染まった教室。
斜陽がカーテンに当たってゆらゆら揺れる。
蹴り開けたドア、腕に抱えたノート。
黒髪が光を受けてステンドガラスのよう。
椅子に腰かけた彼の振りむく姿は、どこか神聖なものに感じられて。




…なんてのは小説の一遍みたいですが。
まあ、なんか絵になるなー、と。



思った訳ですが。



…なんでコイツは怪我をしてらっしゃるので?

放課後に怪我?
じゃあなんでこんな時間に教室に居るんだよ。
帰りの会まで無傷だった筈なのに。

「ぅ…そ、それは、えっと…」

待て待て、なんで口籠るんだよ! 
そんな言えないようなコト?
 
…まさか。
虐められたんじゃなかろうな。
小学生にしてそんな陰湿な輩が…いるのか?

「おしえてくんないの?しんぱいなんだけど」

「ぅう…わらわない?」

「わらわないってば!」

…笑うような女だと思われていたのだろうか。
他人の傷を嘲笑うほど落ちぶれた小学生じゃあない。
さあどんとこい!
どんな内容だって受け止めてやんよ!

「…うんどうかいの、リレー」

「リレー?」

一か月後に開催される運動会。
その花形とも言われるのが全校リレーである。

…そういえば京介も選考されてた気がする。

「リレーがどうかしたの?」

「…れんしゅうしてたら、コケて…ケガした」

…コケて。

「ふっ…あっはははは!」

「わ、わらうなよ…」

顔を赤らめて俯く彼。

いいだろ、ちっとくらい笑わせてくれよ!
心配事が杞憂だって分かって安心したんだっての!

「おれそんなによわくないつもりなんだけど…」

「だってきょうすけカッコいいし?しっととか…」

「おまえはおれをなんだとおもってるの?」

怪我を嗤われたワケじゃなくて安心したのか。
微妙そうな顔の彼はどこか愉快そうで。

そんな問答を交わして笑いあう。

京介が私みたいなのと朗らかに話をするなんて、
マセた女子たちの耳に届いたら今度は私が危ういな。

でも何かしっくりきちゃうのが、コイツの凄いトコなのかもしれない。