--舞踏会から一週間後


フェリシア王国の王宮の一角からは朝から悲鳴が響き渡っていた。

「なんなの!もう鬼としか思えない!私は公爵家の令嬢よ!もう少し敬意を払うとかないの!?」

「いくら身分が上でもノエル王女のお世話係としては後輩だろう。文句を言うくらいなら一つでも多く仕事を覚えろ」

舞踏会の次の日からエレナはゼノンにマンツーマンで仕事を教えられていた


「大体この一週間ノエル王女のお顔さえ見てないのよ!いい加減お茶運びぐらいさせてよ!」

「しつこい女だな。基本的な仕事を覚えるまではノエル様の前に出せるわけがないだろう」

「うっ…」

このままではノエル王女に1度も会うことなく実家に送り返されそうだ。

エレナが危機感を覚えたとき、

「エレナはかどっているか?」

「!!ノエル王女!!」

会いたいと思っていたノエルがリースと共に部屋に入ってきた。

「ノエル様、」

「すまないな、任せっきりにして」

「いえ、大丈夫ですよ」

「ボソッ)私と対応が雲泥の差」

「何か言いましたか?」

「いいえ!!」

「エレナ、仕事は覚えられたのか?」

「はい、基本的なことは」

「では明日から実際に私のそばについてもらう」

「本当ですか!?」

エレナはゼノンのスパルタ教育で心身ともに疲れていたが、ノエルのこの一言で元気が湧いてきた

「明日のことはゼノとリースに聞いておいてくれ」

「はい!」
「ああ、そうだ。ゼノ、」

「なんでしょう」

「スルト兄様が呼んでいた。夜に来てほしいと」

「かしこまりました」


「じゃあ私は部屋に帰るけど、エレナ」

「はい!」

「王女はつけないでいい」

「えっ?」

「明日から王女って呼ばないで」

「…わかりました」

それだけ言い残すとノエルはぱっぱと部屋から出ていった。


「ノエル王女…ううん、ノエル様…今日も綺麗」

「今までと対応が随分違いますね」

「…今までの私とは違うの!」

「まぁノエル様に危害を与えない限り構いませんが」

「危害なんて与えないわよ」

「とりあえず、明日の予定を教えますがその前に、私の方が王宮勤めは先輩です。敬語を使えと何回言わせるのですか」

その後、ゼノンの説教は夜まで続いた次の日から実際にノエルのそばで働き始めたエレナはとても生き生きとしていた。

「ノエル様、おはようございます!」

「…んー、もうちょっと寝るのー」

「ダメですよ!起きてください」

(寝ぼけてるノエル様、すごく可愛い!)


今まではほとんどノエルと関わってこなかったエレナだが、こうして関わることで、知らない一面をたくさん知ることが出来た。


「エレナ、」

「なんでしょう」

「今日お昼からスルト兄様のところに行くから」

「わっ、わかりました」

突然第一王子の元に行くと告げられ、緊張するエレナだったが、

「そんなに気を張る必要はないよ。スルト兄様は優しいから」

「でも、この国の第一王子ですよっ」

兄なのだからノエルが緊張しないのは当たり前だ。

しかしエレナは第一王子スルトとほとんど交流がなかった。


「エレナ大丈夫よ、スルト様は本当に優しい方だから」

まだ緊張しているエレナにリースが声をかける。

リースはエレナよりも身分が下だが、同じノエル付きの侍女として同等の付き合いをして欲しいというエレナの希望で、ため口で話している。


「この程度で緊張するなんて、ノエル様の侍女としてふさわしくありませんね」

「なっ、」

「ゼノ、あんまりエレナをからかってやるな」

「申し訳ありません。ノエル様」

「さあ、スルト兄様のところに行こう」「…」

エレナは先ほどから開いた口がふさがらない

「エレナっ、口が開きっぱなし!」

「ノエル様の前でそんなあほ面晒さないでください」

「いや、、、これは誰もがこうなるわよ」


エレナがこんな顔になったのは少し前のことになる--


ガチャッ

「スルト兄様、」

「ノエル!」

「ん!?」

第一王子スルトの部屋を開けたとたん、ノエルはスルトに抱きしめられてしまった。

「え!?」

突然の行動にエレナが驚く

しかしいつもの事なので、ゼノンもリースも平然としている。

「兄上、姉上を独占しないでください」

「うるさい、ゼロ。昨日はノエルとまともに話せなかったんだ」

「しょうもないケンカはよしてください。シスコン兄弟」

「「シスコンじゃない」」

ノエルを取りあう2人のどこがシスコンではないのか。
その場にいた誰もが疑問に思ったがわざわざ口に出すものはいなかった。


「スルト兄様、今日はエレナを紹介しようと思って」

「エレナ?、、、ああ、スフィア家の」

「そう、とりあえず1ヶ月お試し中」

そう言ってノエルはエレナをうながす

「エレナ·スフィアです。よろしくお願い致します、スルト王子、ゼロ王子」

「ああ、まぁとりあえず1ヶ月頑張ってくれ」

「こちらこそよろしくお願いします」

「じゃあ帰るから」

「なっ!?もう帰るのか?」

「うん」

さっさと部屋を出ようとするノエルをスルトが引き止める。

「このあと用事があるから」

「…分かった。じゃあ少し話があるからゼノンとエレナは残ってくれ」

「「はい」」



「すまないな。引き止めて」

ノエルがリースと共に部屋を出ていったあと…

「エレナ…お前は俺たちの大切なノエルを最後まで支えられるか?」

「はい」

「本当に?これからノエルは過酷な道を進んでいくことになるんだぞ?」

「もちろんです。」

「そうか」

その答えを聞いてスルトは満足したようだった。


「ところで…ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

ずっと気になっていたことをエレナは聞く「なぜ、ノエル様が国王に?どうしてスルト王子ではないのですか?」

「ノエルの方が立派な王になる。そう思える出来事があったからだ。その日から俺にとって王はノエルなんだ」

「出来事…?」

「それはおいおい、な」


話が一段落したところで解散となった


「スルト様、私が残った意味は?」

「ああ、ない」

「は?何考えているのですか?このバカ王子」


思わず王子にも毒舌なゼノンをすごいと思ってしまったエレナであった。---1ヶ月後


「エレナ」

「はい」

「この1ヶ月よく働いてくれたと思う。何よりゼノのスパルタによく耐えた。今日から正式に私の侍女とする」

「っ、はい!誠心誠意働かせていただきます!!」

「改めてよろしくね、エレナ」

「まぁ、この1ヶ月耐えられるとは思いませんでした。少しは認めましょう」


ノエルに新たな仲間が加わった瞬間だった。「--ということでエレナ正式に私の侍女とした」

ノエルはこの日、スフィア侯爵夫妻を呼び、正式にエレナを侍女にしたことを報告した。

「エレナが1ヶ月耐えられるなんて思わなかったわ。これからもよろしくね」

「ああ」

「ノエル王女、エレナをよろしくお願い致します」

「オーディン、そんなにかしこまるな」


「堅い話はここまでにして…ノエルっ、お話しましょっ」

「っ、マリナ!ノエル王女に失礼であろう!」

「構わないよ。いつもの事だから」


その後ノエルは3時間マリナに拘束された。