それの、あまりにも甘い表情といったら。


「っ……」


「莉世?」


「な、なんでもないっ……」


スっと顔を覗き込んできた蒼井を押し返して、前の人との間を詰める。


なによ、その顔……

反則、でしょ……


笑っているのはいつものことなんだけど、心から愛おしいと言われているような、直接耳元で好きだよ……なんて、言われたみたいな。


一段と優しく細められたその目元に、ぎゅうっと胸の辺りが苦しくなる。


もしかしてこれが、世間一般で言われる胸きゅんってやつなの?


「ねえ、蒼井」


「ん?」


「胸キュンって、したことある?」


「なに急に?可愛い莉世といる時なら、常にドキドキしてるけど……あ、もしかして俺にドキドキしてくれて……てっ!!」


一瞬目が点になったけれど、みるみるうちに嬉しそうに、向日葵が咲いたように笑うもんだから、また胸がきゅううんと音をたてて。


「っ〜!!」


再び訪れた苦しみに、思わずバシッと叩いてしまった。


「ちょっ、莉世!?」



胸キュンどころか、心臓を鷲掴みにされたような苦しさがあるんだけど!?


こ、これも、胸キュンってこと!?


「もうお店入れるって」


「あっ、待てよっ!!」



収まって、私の心臓……


トクトクと、鼓動がとてつもなく早く動いている。


この胸の高鳴りが、どうか蒼井に聞こえていませんように。


そんな願いを込めて、胸の辺りに手を置きつつ、お店の中へ入ったのだった。