「…あ。」


その時。私の声に、顕現録のページをめくる伊織の手がぴたり、と止まった。そこに描かれていたのは、かろうじて折り方を覚えている折り紙。星は四つだ。

しかし、顕現録に書かれた名を見た瞬間、伊織の表情がふっ、と曇る。


「“彼”、ですか。…なかなか厳しいですね。」


(?)


きょとん、とすると、伊織は目を細めて言葉を続けた。


「この折り神は、顕現録の中でも特に格が高いです。…しかし、その力を求める人間たちから追われ、利用され続けたせいで、“人嫌い”になったと聞きます。」


「…!」


“利用”


どくん、と心臓が鈍く音を立てた。確かに、陰陽師の術で実体を得たとはいえ、主従関係が結ばれれば自由は奪われる。

千鶴も、虎太くんも、自分から私について来てくれたが、それは稀なことだ。人嫌いの折り神がいたって、おかしくない。

その時、顕現録を覗いた千鶴が、深紅の瞳を細めた。


「…こいつとは、遼太郎が主だった時代に顔を合わせたことがあるが…、いつも飄々としてて掴めない奴だった。実力は群を抜いていたけど、歪んでる、っつーか…。遼太郎も従わせるのに苦労してたな。」


千鶴の言葉を聞いて、ごくり、と喉が鳴る。そんな癖のある折り神を、なんの知識もない私が呼び出していいのだろうか。