「もっと腕ふれー!」
「フライング!もう1回だ!」
「そこ1年!歩いてんじゃねぇぞ!」
夏休み前の大会に向けて私達陸上部はいつも以上に張り切っていた。
「はあっ…はあっ……」
グラウンドで膝に手をついている梶村くんに駆け寄る。
「梶村くん大丈夫?無理しすぎなんじゃない?」
大会前に張り切りすぎちゃうのはよくある事だけど、
今回の梶村くんは無理しすぎだと思う。
「全然……大丈夫…」
梶村くんは私を見ずに前方にいるこーくんを真っ直ぐ見ていた。
こーくんもいつも以上に張り切っているが、梶村くんほど疲れ果てていない。
「俺…もう、誰にも負けたくないんだよね」
「梶村くん…」
彼は再び走り出した。
こーくんを追いかけるように。
羨ましいな。
私には競いあえるライバルがいない。
「……私も頑張ろう」
私も走り出した。
「え?今日残るの?」
いつものようにこーくんと帰ろうと思って、校門で待っていたらこーくんから電話がかかってきた。
「ああ、今グラウンドに梶村くんといる。前野さんに許可もとってあるから」
珍しい。
今まで委員会の仕事があっても私を待ってまで帰っていたこーくんがまさかの梶村くんと2人で残るなんて…。
「今回の大会……もしかしてきーちゃんとの約束のこと……」
「お前は気にするな。元からアイツにはずっと勝ちたかったし、いい機会だったんだ」
そんなこと言われても、こーくんが負けたら陸上をやめちゃうんだよ…?
「明香、俺は勝つ。俺は陸上をやめたりしない」
「うん…分かってる。こーくんは負けたりしない」
こーくんは昔から有言実行で、
どんな事でも「やる」「できる」「勝つ」と言って全てこなしてきた。
だから今回もきっと……。
「ありがとう明香」
そう言って通話を切った。
どうしてだろう。
こーくんのこと信じてるはずなのに、
こんなに不安になるなんて。
三日後、大会が始まった。