蜜月は始まらない

早口で話す私を見つめる錫也くんが、ゆっくりとまばたきをした。

たった一瞬の出来事のはずなのに、現実よりずっと長く感じながら、反応を待つ。



「ああ、別に。気にしなくていい」



就寝時に着ているTシャツとスウェット姿のまま、そう言って錫也くんは口もとに片手をあてあくびをした。



「まあ、夜はそれなりに冷えるし、風邪ひくのもアレだから気をつけろとは言っとくけど」

「そう、だよね。ごめんね、ありがとう」

「ん」



私の返事にうなずいた彼が、今度はソワソワとこちらの手もとを気にしだした。

その様子につい苦笑しながら、私はサラダに飾るトマトを包丁で切っていく。



「今日は飛行機移動だから、早めに家出るよね? もうすぐ朝ごはんできるよ」

「ああ、腹減った。顔洗ってくる」



言い残して洗面所へと消えた錫也くんを目で追う私は、ドアが完全に閉まったのを確認してはーっとため息を吐いた。

さっきの私、不自然じゃなかったかな。

あえて指輪とアンダーシャツのことは何も言わなかったけど、錫也くんはどう思っているんだろう。

もしかして、私がバレてることに気づいてないと思って、スルーしてくれてるとか……?

どちらにしろ、彼からあの話題に触れないでくれるのはありがたい。

今回ばかりは錫也くんの優しさに、ここぞとばかりに甘えることにする。