いよいよ始まる。俺は大声で、ナインを叱咤すると、キャッチャーボックスに腰を下ろした。


(由夏、見ててくれよ。お前のお陰で、俺はここに戻って来られたんだ。だから、俺は精一杯のプレーをお前に見せる、そして必ず勝つ!)


久しぶりにあいつに心の中で呼び掛けると、俺はマウンドの沖田にサインを送った。


(さぁ、俺達の最後の夏の始まりだ。沖田、力一杯投げ込んで来い!)


俺のサインに肯いた沖田は、ゆっくり振りかぶった。次の瞬間、キレのいい直球が俺のミット目掛けて投げ込まれて来る。


「ストライク!」


俺の後ろから、心地よい声が聞こえ、我が校応援団が陣取るスタンドからは、ドッと歓声が上がる。


「ナイスボールだ、沖田。」


(今日の沖田のボールは走ってる。イケるぞ。)


たった1球だが、俺は沖田の好調を確信した。


松本省吾も白鳥徹もいないグラウンド。だが俺達は決してひるまない、俺達は俺達の力を信じて戦うのみだから。


沖田は簡単に初回、3人の打者を片付ける。立ち上がりに課題の多い奴にしては、申し分ないスタート。


「沖田先輩、ナイスピッチングです。」


ベンチに戻った俺達を、村井が笑顔で迎えてくれる。


「よし、この流れに乗ってこうぜ。一気に先制だ、山崎、頼んだぞ。」


「おぅ、任せとけ!」


先頭打者の山崎が、飛び出して行くと、その勢いのまま、ヒットで出塁すると、2番の金谷が送りバント。続く3番橘、4番仁村、5番神が3連打で畳みかけ、あっと言う間に2点先取!


「イケるぜ!」


「初回で、一気に決めちまおうぜ。」


ベンチのムードは早くも最高潮。


(やっぱり、去年の秋とは違うぜ。)


俺は思っていた。