俺は、午後の授業をサボって、学校を抜け出した。俺の退部宣言の波紋が広がって、ガタガタいろんな奴から言われるのが、イヤだったからだ。


こう見えても、サボりなんて初めて。家に帰るわけにもいかず、どこかで時間を潰そうと思ったけど、どこでどうしていいかわからない。思えば、野球の練習ばかりして来て、学校の帰りに、どこかで遊ぶなんて経験は全くと言っていいくらいになかった。


仕方ないので、近くのショッピングモールをぶらぶらしながら、時間を潰し、それでも家に戻ったのはせいぜい5時くらいだったろうか。


マンションの入口に近づくと何やら人影が見える。そして次の瞬間、俺は思わず足を止めた。


(由夏!)


セーラー服にカバンを持った、明らかな学校帰りのあいつは、間違いなく俺を待っていた。果たして、俺の姿を見つけた由夏は、ニコリと微笑んだ。


「お帰り、どこ行ってたの?」


思えば、由夏とはあの夏の日以来、ただの一言も喋ってない。無理もない、あんな酷いことを言ってしまったんだから。


だけど今、何事もなかったかのように、俺に話し掛けて来る由夏に、俺は正直、戸惑っている。


「聡志が授業サボるなんて、珍しいじゃん。」


「うるせぇな、関係ねぇだろ。まさか説教でも、しに来たのかよ。」


神の言う通り、俺は本当にガキかもしれない。由夏が話し掛けてくれたことが、嬉しくて仕方ないのに、なんで、こんな悪態をついちまうんだろ、俺は。


「とんでもない。あんたが私の言うことに耳を傾けてくれるくらいなら、苦労しないよ。」


「・・・。」


「野球部、辞めるんだって?」


「なんで知ってるんだ?」


「人がお昼食べてる横で、あんだけワーワー騒いでれば、嫌でも聞こえるよ。」


そっか、由夏はいつも、水木と一緒に昼休み、屋上で弁当食ってんだった。すっかり忘れてた、というか、近くに由夏がいることに気づかなかったということは、あの時の俺は、よっぽど興奮していたらしい。


「偉い!」


「はぁ?」


いきなり何を言い出したのか、俺はキョトンと由夏の顔を見つめてしまった。