薄く開けた唇から吐き出されたのは、かっこ悪いくらい震えた声。


「消さなくちゃって思うのに、どうしてできないのかしら。簡単にできるはずなのに」


連絡先を消すだけだ。たったそれだけ。

押すだけで終わるはずなのに、どうしてできないのだろう。



「それは消したくないからですよ」

浅海さんは優しく穏やかな口調で言うと、私の握り締めた手にそっと触れる。



「大切なものは、そう簡単には消せないです」

「大切……?」


連絡先を消せないのは、私があの人を大切だと思っているから?


夜に電話で話していた日々を消してしまいたくないから?

本当は……隣にいたかったの?



「変よ、そんなの……おかしいわ」