婚約破棄はお互いに望みだ。

なにも悪いことをしていない久世に苦労をかけるのは申し訳ないけれど、伯母が決めた婚約を白紙にするには久世家からの申し出が必須。


「想っている相手がいる。だから、この婚約は受け入れられないと理解してもらうまで何度も話す。時間はかかるだろうが。お前の伯母にも俺から連絡しておく」

「……好きな人、いたの?」

「誰だと思う?」

私と向かい合うようにソファに座っている久世が口角を上げる。

意地悪で試すような表情は普段よりも大人に見える。こんな久世を初めてだ。



「私と貴方の共通の知り合いって希乃愛しか思い浮かばないわ」

「俺を好きにはならないとわかっている相手だ」


そんなのますますわからないわ。


眉を顰めると久世は「まあ、俺にできることはこれくらいだからな」と控えめに笑った。