「えっと……その」

「なに? 教えて」

「い、犬が……飼いたい。……ダメじゃなかったら」

「!?」



その瞬間、雲類鷲家に稲妻のような衝撃が走った。



蒼がようやく言ったわがままが『犬が飼いたい』。

恥ずかしそうで、どこか不安げなその表情は心が浄化されるレベルで可愛らしかった。


お父様がどこかに電話をし始める。

お母様は立ち上がり、使用人たちに「犬の図鑑を持ってきて!」と声を上げる。


私は戸惑っている蒼の肩を掴み、「小型犬か、大型犬どっち!?」と希望を聞き出す。



「え、いや、え!?」

「犬種は!?」

「えっ」

蒼の初めてのわがままは、雲類鷲家にとっての大事件となり、家の者たち総動員で蒼が希望する犬を探すことになったのだった。