周囲を見渡すと、瞳が女子生徒たちに囲まれている。

号泣している人もいて、あれはガチ勢だよなぁ。瞳の場合は、憧れとかよりも本気で想いを寄せられていることも多々あるし。

スミレは相変わらずの天使のような無垢な微笑みを浮かべて、後輩ちゃんたちと会話をしている。

……みんな知らないんだ。あの天使のような菫の君は『うわははは!』と笑いながら、駄菓子を貪って変顔を楽しんでいるなんて。夢は壊さない方がいいね。

うわあ……蒼もここぞとばかりに女子生徒達に話しかけられてる。

ちょうどお父様とお母様は伯父様の元へ行っているし。さーて、私はどうするかなぁ。このままここにいると話しかけられて抜け出せなくなっちゃうし、とりあえずホールの外に出よう。


外に出ている生徒はまだいなかったようで、ホールの中とは違って外は静けさを帯びていた。

緩い風が吹き、私の黒髪をさらうとほんのりと赤みを含んだ白い花びらが舞い踊る。


春は好きだ。

過ごしやすいし、なんていっても桜が綺麗。蒼がホールから抜け出すまで、もう少し時間がかかるだろうから、学院内を散歩することにした。


穏やかな午後の陽気は私の心を踊らせる。普段は授業があるからこんな時間帯に散歩なんてできない。