憂鬱な気持ちを抱えながら雲類鷲邸へ訪問し、不服だが向かい合うようにソファに座る。これはいつも通りで、普段なら真莉亜は退屈そうに紅茶を飲んでいる。

けれど、今日は違った。

何故か熱心に片手で本を読んでいて、空いた方の手はダンベルを持っている。真莉亜らしくない可笑しな行動だ。しかも、読んでいる本は『瞬発力を身につける五つのメソッド』。……意味がわからない。


「それ……なんだ?」

「……本ですわ」

見ればわかる。


「いや、なんでそんな本読んでるんだ?」

耐えきれなくなって訊いてしまったが、今日は無視も嫌な顔もされずに真莉亜は答えた。


「いつどこでなにがあるかわかりませんわ。ですから、私は己の身に危険が迫ったときに瞬時に対応ができるように勉強をしております」

それで『瞬発力を身につける五つのメソッド』? いや、それ役立つのか?


「それにいざというときに力がなければ、困るかもしれませんわ。ですから、私は己の筋力をつけておくために特訓をしております」

……それでダンベル。