「このクッキーの美味しいです。模様も独特ですね」


浅海さんが食べているのは、私の水玉クッキーだった。ごめんなさい。独特で。

普通水玉に使われる言葉じゃないですよね。よっぽどおかしな模様に見えるってことですか。


あ、瞳さーん、目を逸らさないで。


「こういう誕生日会も楽しいね、拓人」

「よかったねー、拓人」


嬉しそうにしている天花寺とにやにやしている雨宮とは視線を合わせずに、桐生は小さい声で「ああ」と呟くように言った。

そして、フォークを置いて頭を下げた。



「ありがとう」

桐生がこんな風にお礼を言うとは思ってもみなかったけど、彼も少しずつ変わり始めたってことなのかな。


このあとも、茶道室で過ごす時と変わらない様子でみんなで騒いでいた。

桐生はさっきみたいには笑ったりしなかったけど、いつもよりは表情が柔らかかった。



片付けの時に、家庭科準備室を覗いてみると景人の姿はなかった。


家庭科準備室にも廊下につながるドアがあるのでおそらくそこから出て行ったのだろう。


こうして私は桐生景人からのお願いを無事に叶えることができたのだった。

これから先は彼ら次第だ。