彼女は桐生が大好きなんだな。
大切で、救いたくて、必要とされたくて、それでも幼い彼を救ったのが他の人で歯がゆい思いを抱えていた。
だから、前に天花寺と遭遇したときあんなに敵意丸出しだったんだ。
『僕は拓人がなにに喜ぶのかは知らない。知っているのは、〝アイツ〟が喜ぶことだけ』
景人が言っていたアイツとは流音様のことだ。
彼は流音様が桐生拓人のことをずっと気にかけていたことを知っていて、そして、景人は流音様を気にかけていた。
それぞれに恋情があるのかは知らないけど、切ない関係だな。
「流音様、一つ約束をしてください」
「……約束?」
「桐生様のお誕生日を祝う日は必ず〝ご自身の口〟で伝えてください」
パペットを使わずに、彼女の口から伝えるべきだ。
自分じゃない別の何かに気持ちを話させるのは、それは逃げなんじゃないかと思う。
動揺した様子で揺れ動く流音様の目は隣に置かれたうさぎのパペットへと移される。



