「それでは、ごきげんよう」

急に不安に襲われて、顔を引きつらせながら足早に雨宮の横を通過して先を進んで行く。

曲がり角のところで一人隠れるように立っている人物に気がついた。


相手は相変わらず私を睨みつけていて、嫌な感じだ。

おうおう、そっちの方が明らかに悪いのになんでそういう態度とられなきゃいけないんだ。


この男とは仲良くなれそうもない。雨宮とも無理だと思うけど。



「立聞きですか」

桐生の目の前に立ち、挑発的な視線を向けて微笑む。


「……怖い女」

「趣味の悪い男」

微笑みを消して睨みあう。先に私に企んでいるんじゃないかって言ってきたのは雨宮だし、失礼なのは向こうだ。

いつまでも睨み合っているわけにもいかないので顔を逸らして、階段を下っていく。

どうして桐生ってあんなに嫌な感じなんだろう。いつも眉間にしわを寄せていて、仏頂面で睨んでくる。雨宮の方が扱いづらいけど、桐生も結構面倒くさい。


あー! 言い返してスッキリスッキリ!


……今更わずかに手足が震えているなんて、気のせい……気のせい。こ、怖くないし。ぜ、絶対桐生も犯人じゃないし!