笑うな、全員笑うなよ。笑ったら恐らくスミレは泣き出す。
瞳と天花寺は唖然としていて、桐生は相変わらずの仏頂面。雨宮は両手で顔を覆っていて、僅かに肩を震わせている気がした。
浅海さんはポケットからハンカチを取り出すと、躊躇いなくスミレの顔についた生クリームを拭っていく。
「これは顔を洗ったほうがいいかもしれないですね。わ、綺麗な髪……地毛ですよね? ってすみません」
「き、綺麗……?」
浅海さんの言動に目を見開いたスミレは、口を鯉みたいにパクパクとさせいる。生クリームの隙間から見える頬がほんのりと赤くなっている気がするのは見間違いだろうか。
「あわわあわわわわわわ」
「えっと……大丈夫ですか?」
「だ、だい、だいだいだいぶうじょいだ」
スミレの顔はますます赤みを帯びていく。
どうやら見間違いではなかったみたいだ。きょとんとして首を傾げている浅海さんはどうやらまだ自分が男装している自覚が足りていないらしい。
「スミレ、落ち着きなよ。拭いてくれてる彼も驚いてるよ」
ため息を吐いた瞳が立ち上がり、「顔を洗いに行こう」と言ってスミレを連れて一旦茶道室から出て行った。
残されたのは私にとっては少し居心地が悪い顔ぶれだった。
雨宮はにたにたしているし、天花寺は能天気にケーキを眺めている。浅海さんは丁寧にハンカチを畳んでいて、桐生は鋭い眼差しで私を見ていた。



