言い返す声が震えた。心臓が、信じられないくらいの速さで鼓動を打っていた。

「逆に、お前が俺を籠絡すれば、借金をチャラにできるとは思わないか?」

 悪魔のささやきが耳朶を撫でる。

「あなたが色に溺れる人だとは思いません」

「光栄だ。予想以上に信頼されているらしい」

 くくっと喉を鳴らして笑う。そんな姿さえ婀娜っぽく見えてしまう。

「借金と絵の問題はきっぱり別にして、俺のものにならないか。横川美羽」

 夜の闇を溶かしたような瞳に吸い込まれそうになってしまう。しかし彼を信用してはいけない。社長は私の敵だもの。頭の中で警鐘が鳴る。

「俺のものって……」

 問う声が掠れる。

「俗に言う、恋人というやつだ」

 恋人。便利な言葉だ。彼には私の他に何人、恋人がいるのだろう。

「私は、あなたのコレクションに加わる気はありません」

 美術品を収集するように、女性も珍しいからといって自分の傍に置けると思わないで。どれほど財力があろうと、思い通りにならないこともあるんだから。

「そもそも私はあなたのこと、好きじゃな──」