「面白いな、お前。会うたびに違う表情を発見させられる」

 真っ直ぐに目を見つめられて、思わず視線を逸らした。そんな、愛しい女に向けるような視線で私を見ないで。勘違いしてしまう。

「離してください……」

 懇願する声が天井に吸い込まれていく。代わりに聞こえてきたのは、決然とした拒否の言葉。

「いやだね」

 社長は悪役らしく言った。

「横川美羽。お前が欲しくなった」

 空いた左手が、うつむく私の顎を捕らえて上を向かせる。眼前に迫る端麗な顔。黒い瞳に素顔の自分が映る。

「何を……あなたが、社長が欲しいのは、私の実家の土地でしょう?」

「ああ。西明寺ホテルの社長としては、あの土地が欲しい。でも、ただの男としての俺は、それよりお前が欲しい」

 ごくりと唾を飲み込む。社長が言っていることが理解できないわけじゃないけど、素直には受け入れがたい。

「からかわないでください。実家の土地が欲しいからそんなこと言うんでしょう? 私があなたに籠絡すれば、簡単に手に入れられると思って」

 そのすぐあとに手ひどくフラれて捨てられる自分が容易に想像できてしまうのが悲しい。自分が魅力的な女性でないことくらい、自分が痛いほどわかっている。