抗弁する私の両手が、前触れもなく封じられた。社長につかまれた両手が万歳の格好に上げられる。息を飲む私を、社長は悪魔のような笑顔で見下ろす。
「なんだ、そんなに抵抗するからどれだけひどいのかと思いきや、そうでもないじゃないか。モナリザのようなゼロ眉毛だったら面白かったのに」
声を上げて笑う社長。ひどくないと言いながら、ひどいものを見たような反応に苛立つ。
モナリザ、たしかに眉毛ない。ゼロ眉毛。私はちゃんと、自眉毛あるもん。逆に手入れしないとフリーダの自画像みたいになってしまう危険が……って、そんなこと言わなくていいか。
私がちょっと力を抜くと、社長も力を緩めて左手を離す。しかし、右手は私の左手に繋がれたまま。
大きな手。ごつごつと骨ばった、男の人の手だ。
「さっきの可愛かったお前とは、別人みたいだな」
言われて余計に体が熱くなる。私ってば、この悪役社長の前で泣くばかりか、そっと抱き寄せられてしまったなんて。不覚だわ。
「人前で泣くような女がお好みですか」
「いいや。普段強がっている女が、ふとした瞬間に見せる弱さというのに弱いんだ」
彼は何を言っているんだろう。そして、いつまで手を繋いでいるつもりなんだろう。



