「いいえ、たしか社長がオークションで手に入れたものだと」

「出品者はわかりますか?」

「出品者の名前が伏せられているオークションだったと記憶しています。申し訳ありません」

 私は遠慮なく、がっかりと肩を落とした。お父さんがこの画廊に直接絵を売ったのなら、ここから連絡がつくかと思ったのに。居場所も不明なままか。

「この画家は世界中を放浪しながら、出会った人々を描くんですよね」

 社長が言うと、男性はこっくりとうなずいた。

「ですから、作品を手に入れるのが困難なのです。世界中の資産家の自宅や美術館に散らばっていると言われています」

「どれも素晴らしい作品だ」

「ええ、世界的に評価は高いのです。しかし消息がなかなかつかめないので、幻の画家とも言われていますね」

 うちのお父さん、ゲームでなかなか出現しないレアキャラか。若い頃は全然売れなかったとおばあちゃんに聞いたけど、今はそれなりの評価を得ているらしい。

「では、画家とコンタクトを取ることは、下山さんでも」

「不可能でございます」

 きっぱり答えた男性の言葉に打ちのめされた。やっと見えた希望が打ち砕かれたみたいだ。