男性に案内され、階段を上がって上のフロアに。そのドアを開けられた瞬間、私は息を飲んだ。
正面の壁に飾られた、大型キャンバス。描かれているのは、外国の風景。肌が白い、欧州系の人々が市場でいきいきと物を売り買いしている。その足元で走り回る、猫や子供たち。
「これ……このタッチは……」
その横には、市場の絵とは対照的な、暗い雰囲気の絵が。古い服を着た濃い肌の色の子供が、大きすぎる目でこちらに何かを訴えている。その腕の中には、今にも息を引き取ってしまいそうな、やせ細った赤ん坊が。
「同じ画家の作品なんですが、全く違う趣でしょう」
男性が社長に話しかける声が聞こえた。間違いない。この筆の運び方、色の乗せ方。作品の右下端に入れられたサイン。
「横川裕一郎」
作品の脇に付けられているプレートを見て、社長が画家の名前を読み上げた。
そうだ。この作品は、どちらもお父さんが描いたものだ。
「こ、この絵は画家から直接買ったんですか?」
突然大きな声を出した私を、男性は驚いたように見つめた。