つまり、私と社長が男女の関係であると考える人もいるだろうってことか。私としても迷惑だし、社長としても私みたいな女と特別な関係だと思われたくないんだろう。

 そう考えると、なぜか胸がずしりと重くなったような気がした。

「早く乗れ。そんなところに突っ立っていると轢くぞ」

 悪役らしいセリフを吐く社長が、助手席のドアを開けて私を待っている。

 なによ。迷惑なら、誘わなきゃいいじゃない。

「……やっぱり帰ります。彼女さんに悪いから」

 どうして自分がこんなにがっかりしたような気分なのか、さっぱりわからない。そして、食堂に行くまでソワソワしていた自分に今さら気づく。

「彼女?」

「この前美術館でお会いしました」

「ああ。あれはそういうのじゃない」

 さらりと否定する社長が余計に憎らしい。どうして私だけ、こんなに動揺しているの。これじゃまるで、社長と会うのを楽しみにしていたみたい。私が彼に片想いしているみたいじゃない。

「ここまで来て躊躇するな。早く乗れ」

 助手席のドアを開けたままで、社長が命令する。けれど私は踏み出せなかった。これ以上、彼に近づいてはいけないような気がしていた。