前にも聞いたようなセリフを吐き、西明寺社長は私の頭をくしゃくしゃとなでた。
「わあ」
容赦なくぐちゃぐちゃになった髪を直しているうちに、社長は屋上から出ていこうと歩く。しかし、すぐその歩みを止めて振り向いた。
「そうだ。今日仕事が終わったら、また付き合え」
「えっ。今度はどこに?」
課題のホテルはもう見たし、これ以上一緒に行くとことろなんて……。
「行けばわかる。午後六時に食堂集合だ。じゃあな」
「あの、ちょ……」
社長は本当に時間がないのか、にっと笑うと踵を返して行ってしまった。質問を許さない、機敏な動作だった。
「なんなのよ」
親身に仕事のアドバイスをしてくれたと思ったら、また強引な誘い。私が拒否できる身分じゃないことをわかっているんだ。
ちょっといい人かもしれないって思ったけど、やっぱりつかみきれないな。
「あっ、社長! 歯海苔には! 歯海苔には気を付けてくださいねー!」
歯に海苔を付ける。略して歯海苔。
立ち上がって叫んだ私をドアのところで振り返り、意地悪く笑った社長。彼は「承知した」とばかりに右手を軽く上げ、身軽な動作で建物の中に戻っていった。



