「歯に海苔が……」
「えっ!?」
お歯黒になってた? それはさすがに恥ずかしい。
慌ててお茶で口をゆすいで飲み干した。コンパクトミラーで確認すると、海苔はちゃんと取れていた。
「ああ、お前はやっぱり面白い。いい気分転換になったよ。ありがとう」
ひとしきり笑ったあと、社長は笑顔でそう言った。
「社長でも、気分転換が必要な時があるんですね」
「そりゃあそうだろう。俺はサイボーグじゃない」
立場が立場だし、なんというか、無敵の悪役っぽいんですけど。
御曹司で社長なんて苦労がなさそうに見えるけど、やっぱり上の役職ほど責任が重くなるのかな。
「お前は、午前までの仕事を片付けられなかった。そんなところか?」
突然意地の悪い言い方をされ、おにぎりを喉に詰まらせそうになった。なんとかお茶を飲み、一息つく。
「色々あるんですよ、平社員にもね。大きな仕事を担当しているわけじゃないからといって、先輩の仕事を押し付けられたり」
それが社長のせいとは言わないけどさ。愚痴を吐き出したら、ちょっとスッキリした。二つ目のおにぎりに手を伸ばす。



