見回すと、端の方にもいくつかベンチが。そっちに行きたいけど、ここで断ったらさすがに感じ悪いかな。
ため息を噛み殺し、諦めて社長の隣に座った。せっかく休めるときなのに。魔王は早く魔界に帰りなさいよ。地球でバカンスしてないでさ。
頭の中で悪態をつきながら、トートバッグの中からお弁当を取り出す。といっても、おにぎりが二つだけ。中身は片方が梅で、片方が塩昆布。
「昔話に出てくるじいさんみたいな弁当だな」
おにぎりをほおばる私を見て、西明寺社長がふきだした。もぐもぐしたまま横を見ると、社長はくっくっと肩を震わせていた。
「おかずはないのか」
「ありません」
作るのが面倒臭い。冷凍食品を買っておいて、詰めるのさえ面倒臭い。あまりに女子力のない言い分なので、心の奥にしまった。
「可哀想に」
「べつに、可哀想じゃありません。おにぎりを食べられるだけ幸せです。この世界にはご飯を食べられない人がたくさんいるんですから」
それに梅と昆布、体にいいしね。真面目に言い返したのに、社長は背中を丸めて笑う。何かがツボに入ってしまったのか。



